Sekizenkan Ryokan wooden inn beyond red bridge, spring cherry blossoms

四万温泉:ほのかな湯けむりの里

四万もの病を癒すという伝説の湯、ジブリを思わせる橋、昭和のまま時が止まった商店街――群馬の山奥で、びしょ濡れになりながらも生き生きとした私の物語。

見た目は素朴でも万病を癒す温泉街

四万温泉は頑張って行くというより、ふと出会う場所です。バスや車で山道をくねくねと登って行くと、突然景色が変わります。木造の家や百年を越える旅館、澄んだ川、セピア色の写真のような静けさ。普通の温泉街かなと思うと、実はここは四万もの病に効くと言われる湯。地名も「四万」がそのまま語源です。

でも、ここは派手に宣伝するわけではなく、古めかしい魅力を大切にしています。朱塗りの橋、不思議なトンネル、時代を感じる看板、いつでも入れる共同浴場。静かで眠っているように見えますが、どこか不思議な違和感があり、それが心地良いのです。

神様も泊まったかもしれない旅館

宮崎駿の映画『千と千尋の神隠し』を見たことがあるなら、積善館を見れば胸が高鳴るでしょう。黒い木造の長い建物、赤い橋、控えめなトンネルは、映画に登場する湯屋にそっくり。ジブリは直接のインスピレーションを否定していますが、誰もが感じ取ります。夕暮れにその橋を渡ると、現実世界とアニメの世界の境目が曖昧になるようでした。

さらに、四万へ向かう道路には、メロディーロードが仕掛けられています。そう、歌う道です。最後の数キロ、車が勝手に映画の主題歌いつも何度でもを奏でるのです。その日、私は音楽を切り、窓を開けて、アスファルトが歓迎してくれるのをただ聞いていました。時間が止まったような瞬間でした。

幽霊が歩く老舗旅館

積善館は映画のセットのような場所ではなく、1691年創業の実在する旅館で、日本最古の温泉宿の一つと言われています。畳敷きの長い廊下や小さな赤い橋、木の階段を上り下りしていると、昔の客の幽霊が歩いているかのように感じることがあります。私自身、きしむ床板と浴衣の裾が擦れる音が静けさの中に響き、予想以上に長く心に残る経験となりました。

気分に合わせて選べる温泉

四万温泉では、一つの湯だけでは終わりません。旅館の貸切風呂、村の共同浴場、川沿いの無料露天風呂など、いくつもの湯を巡ることができます。中には、瓦の湯のようにいつでも入れる外湯もあり、石でできた小さな湯船に浸かりながら、温かい湯と川の音だけを感じることができます。

なかでも心に残るのは、無料の小さな共同浴場「御夢想の湯」かもしれません。素朴で質素ですが、ここが初めて奇跡の源泉が湧いた場所と言われています。訪れる人は多くありませんが、その人たちは単なる疲れを癒す以上のものを求めているようです。

外観は千と千尋、中は昭和の街

中心部に戻ると、時間が止まったような通りに出会います。剥がれかけた看板、閑散としたゲームセンター、タバコの匂いと埃のこもったショーウィンドウ。ある角には「JOY」というスナックがあり、1983年の大晦日に営業を終えたかのよう。前には森永ロゴのベンチ、プラスチックの提灯、ビデオカラオケ(CD)の看板が並んでいます。すべてがそのまま残されていますが、それは記憶を大切にしているかのようです。

そして、建物と建物の間にぽっかり空いた空間には、かつて何かがあったことを想像させます。まるで家が別の場所へ移動してしまったかのように、きれいに整った廃墟。四万温泉では、空白の余白が物そのものと同じくらい雄弁なのです。

飲む温泉

好奇心があるなら、飲む温泉を試してみるのも一興です。ここでは温泉水を飲むことができます。湯治場の一つ、木造の小さな建物「ゆずりは」では、胃腸に良いとされる飲泉が湧き出ています。私も試してみました。ぬるく、少し金属っぽく、わずかに塩味で……正直言って美味しいものではありません。でもその後に、焼きまんじゅう――甘い味噌ダレがかかった炭火焼きの餡入りパン――を頬張ると、その有難みがわかります。水を飲んだ後のご褒美としては最高なのです。

ゆったりと浸かる四万温泉

四万温泉は単に見に行く場所ではなく、ゆっくり染み入る場所です。何も起こらないようでいて、だからこそ何かが起こる。夕暮れにはオレンジ色の揺れる明かりに照らされた空っぽの通りを散歩し、二つの建物を結ぶ吊り橋は異世界へ続く道のよう。湯煙が涼しい空気に漂い、誰も大声を出さず、猫でさえ静かに佇んでいます。

数日滞在すると、時計を見ようともしなくなっている自分に気づきます。時間の感覚を少し失う代わりに、代わりに得られるのは貴重な静けさと新しい軽やかさ。四万温泉は本当に四万の病気を治すわけではないかもしれません。でも、世の中の雑音を癒やしてくれる。それだけで十分なのです。

同じ群馬で、同じゆっくりした調子の寄り道がふたつ。吹割の滝と、魅惑の地獄・チャツボミゴケ。

Instagram

ここにある写真は、すべて自分で撮ったものです。

記事になるのは、撮った写真のごく一部です。残りはほぼ毎日、その場からInstagramに上げています。

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